タンゴ、ラ・クンパルシータについて

ラ・クンパルシータはあまりにも有名なタンゴだ。当時学生だったウルグアイ出身のマトス・ロドリゲスが作曲した「仮装行列」という意味の曲である。この曲はアルゼンチン、ブエノスアイレスで最も人気が高く、一日のうちで演奏されない日はないとまで言われている。

ラ・クンパルシータに出会ったのは大学に入学して間も無くだった。この曲に魅かれて以後数年間タンゴに没頭することになる。もちろん今でもタンゴは好きだ。ただ当時ほど時間がないので聴く機会は減った。

この曲の録音はそれこそ山のようにある。中でも有名なのがファン・ダリエンソ楽団によるものだろう。この楽団はその強烈なビートから「電撃のリズム」とか「リズムの王様」と呼ばれている。(彼等の演奏による「台風」は秀逸だと思う。)

だがこの曲で僕のお気に入りはロベルト・フィルポの楽団による演奏だ。偶然立ち寄ったCDショップで衝動買いした一枚に録音されていた。

ロベルト・フィルポは「夜明け」などの曲で有名だが、さらに有名なのはタンゴにピアノを導入したという点だろう。この録音では彼のピアノによる演奏を聴くことができる。彼のピアノは美しく、激しく、鋭い。メロディを奏でるときは美しく、かと思えば鋭く重い重低音でリズムをとる。そしてこの演奏には他の演奏にはないスピード感がある。しかし決して軽くならない。情熱と哀しみの同居したまさにタンゴだ。

情熱的なのだが、感情的でない、大人の魅力を感じる演奏である。