思考の速度

映画「マトリックス」では、登場人物たちが超人的な動きをする。あれは、マトリックスがリアルな世界ではなくてバーチャルな世界であることを知っている彼等が、リアルな世界では不可能な物理的束縛を越えた動きができるということだった。

これは我々の世界にも当てはまるのではないかと思う。それは、脳の中の思考の速度についてだ。話すという行為は、声を音として発信して、それを空気の振動として聞き取るという物理的な束縛を受けるため、自ずと限界が生じる。しかし、頭の中だけで物事を考える、あるいは目で見たものを認識するという行為は、そのような物理的な限界とは無縁ではないかということだ。要するに、文字として書かれた文章を認識するのには、それを読み上げるほどの時間はかからないだろうということだ。

だから本棚を眺めてどんな本がそこにあるのか認識する際に、本の背表紙のタイトルを読み取って、音声信号としてそれを認識するよりもずっと早く脳はそのタイトルを認識しているのだろう。したがって、面白そうな本を探すときは本棚をざっと眺めれば十分であって、そこで自分のアンテナに引っかからない本は探していない本なのだろう。もちろん、アンテナを張ってないけど実は読んだら面白かったという本は1冊1冊じっくり考えないとわからない。しかし、1冊1冊じっくり考えていては本屋の一箇所を探すのに非常に時間がかかってしまう。しかも興味を持っている範囲だけでも読みたい本は無数にある。自分の脳の速度を信頼して、冗長な音声認識に頼らずに本を探してみるのもいいかもしれない。