眠読

この世には眠たいときに読むべきではない種類の本というのが存在する。哲学の本はその最たるものである。読んでも読んでも右から左。全然頭に残らない。

物理の本を読みながら寝てしまったときは反対に面白い経験をすることがある。読みながらイメージしていたミクロの世界の現象が、夢の中で実際に起こるのである。一度昼寝をしているときに、電子とフォノンが衝突して相互作用している夢を見た。「わかった!」って叫びながら起きたときには既に細部を忘れており、「今電子がこう…」ってごにょごにょ言いながら手で軌跡を描きながら(この時点で間違いであるが)隣で一緒に昼寝をしていた人に説明しようとしたのだけど、二人とも寝ぼけていたものだから全然話が噛み合わず、そのまま再び寝てしまったのであった。後になって冷静に考えてみると、完全に古典的な描像で電子の運動を見ているのだから明らかに正しくないのだけど、その時は忘れて惜しいことをしたと悔しがったものであり、突然の閃きとともに浴場から全裸のまま飛び出していったアルキメデスの気持ちがわかるぜ、なんて思ったものだった。(^_^)

また、昔物理学実験のレポートを書いているときにある問題が解けなくて、後ろにパタンと倒れてそのまま眠ってしまったときに、夢の中でその問題が解けたことがある。とは言っても問題が解けた夢を見ただけであって、実際にその問題が解けたわけではない。結局のところその問題は解く必要がない問題であったらしく(手では解けない問題だった)、レポートは無事提出することができたのであった。歴史上、夢がヒントになって大発見をした科学者というのは若干数あるものだけど、どうやらそれは嘘ではなさそうだというのが僕が大学時代物理の勉強を通して学んだ、貴重な体感の一つである。

註)古典的な描像で電子の運動を見たのは単なる日常生活における習慣と、寝る前に見ていたのがファインマンダイアグラムだったことに影響されているのではないかと考えている。