クイズの神様

僕が小学生の頃、父が突然「ヒマラヤ山脈で一番高い山を上から3つ言えるか」と訊いてきた。僕が「わからない」と答えると、自慢気に3つの7千メートル級の山を教えてくれた。もうお気付きのように、父が教えてくれたのは誤りである。最も高いのは8千メートル級のエベレストなのだから(諸説あるけどまあ、一般的に)。その山々が何という名前であったか今となっては思い出せないのだけど、この話には続きがある。(もちろんある。ここで終わってはオチがない。)

僕はその3つの山を毎日必死になって覚えて、山の名前と標高を暗唱できるようになった。これでいつか誰かに「ヒマラヤ山脈で最も高い山を述べよ」と言われても大丈夫と思っていた矢先、クラスのイベントである物知りがクイズを出した。曰く
ヒマラヤ山脈で一番高い山は何でしょう?」
当然僕はここぞと思い、今時来たりと真っ先に手を挙げた。指名され、立ち上がって僕は自信を持ってこう答えた。
「エベレスト!」
そう、僕は「間違えて」しまったのである。あれだけ一生懸命覚えたのに。
「正解、約8848メートル。」(この標高も諸説あるけど許して)
という声を受けて自信満々に席につき、心の中で「ありがとう、お父さん。よくやった、自分。」とつぶやいていた。そして、「そう、その山は8千・・・、8千!?」。僕は間違えて正解を言い当てたのであった。そのとき僕がなぜ間違えて「エベレスト」と答えたのか、なぜ僕が「エベレスト」を知っていたのか今でもわからない。ただ僕は、あの時はクイズの神様が僕の耳元でそっと正解を囁いてくれたんだな、と思っている。